バグの価格

「バグは機会損失であり、事業者が払う対価は大きいものだ」
これを疑ったことがあるだろうか?
あるひとつのケースを用いて、検証してみた。

ソーシャルゲームのケースを題材とする※

ソーシャルゲームの原価として、何があるか?

ざっくりいうと、販促費、開発費、インフラ運用費、課金手数料、サポート費などがある。
論旨をシンプルにするため、ここではプレイユーザーの増減によって影響する、インフラ運用費とサポート費に特化して進めることとする。

まずはインフラ運用費。
潜在ユーザーも含めて、1ユーザーがひと月に平均1000PVのアクセスをするとして計算を進める。
1,000万PVをさばけるサーバーを用意したとして、コストが月々約3万円だとすると

30,000円×1000PV÷10,000,000PV = 3円/月 程度となる。

サポート費はというと、2,000万人のユーザーを100人でサポート&管理すると仮定、1人月を60万円として計算すると

600,000円×100÷20,000,000人 = 3円/月 程度。

ここで出てきた「合計6円/ユーザー/月」という数字自体に、それほど意味はない。
言いたいことは、これくらいの規模のサービス(システム)であれば、ユーザーが1人減ろうが増えようが、ひとりあたりのコストは「無視できるほど小さい」ということである。

次に、上記のソーシャルゲームにおいて、緊急メンテナンスを要する、甚大なバグが発生したとする。
★新たに投入したカード合成機能のモジュールにバグがあり、無限増殖が可能となって、それまで構築してきたゲームバランスを、著しく損なう危機が発生!
★OSのアップグレード版にアプリが対応しておらず、課金スキームでアプリが高確率で落ちてしまう!
など、なんでもいい。

サービス停止から開始まで、3時間のメンテナンス時間を要したとする。
さて、その月の損失はというと…

((1,000PV÷30日)÷24h )× 3h = 4.17 PV/ 人 / 日 の損失。

ひと月のひとりあたりの平均PVが996に減ったとしても、同基準のサーバーコストは

30,000円 × 996PV ÷ 10,000,000PV = 2.988円/月 となる。

サポート費用では、1,000PV / 人 × 2,000万人=200億PV見込めたところ

20,000,000,000 PV -(4.17PV/人 × 20,000,000人)= 83,400,000 PV減って19,916,600,000 PVとなり、通常2,000万人のユーザーのうち

20,000,000 – (19,916,600,000 PV ÷ 996 PV) = 約3,414 人分の対応が減ることとなる。

このうち、課金者の割合を5%、平均ARPPU(課金会員一人あたりの月刊売上高)を2,000円と見積ると

3,414 × 0.05 × 2,000 = 341,400円 程度の損失額としかならない。

当然、運営は補填を(サービス不具合のお詫びを課金アイテムの付与という形で)全ユーザーへ当てるので
メンテナンス後のアクティブユーザーは、平均数/日を上回ることが予想される。

もちろん上記の計算は、仮定を辿りに辿った上での、偏りのある皮算用である。
しかし、そこそこ人気のあるソーシャルゲームを運営している事業者であれば、上記のような規模感でバグを捉えることができることもまた、事実である。

ただ、現実にはそうもいかない側面がある。

上記の計算であっても、それを繰り返せば、離脱するユーザーは何倍にも膨れ上がることだろう。
2chや各種ソーシャルメディアを媒介し、個人の口コミは回りに回る。
軽いバグが大きな火の粉となり、悪評と化してアクティブユーザーを奪う例も少なくない。
その数値を計ることはできない。

離脱の要因は多々あるものの
「とりあえず、災いのもとを塞ぎたい」

これが、ぶっちゃけた昨今の品質に対する要望なのだろうか?

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※冒頭の計算部分については、下記サイトの記述を参考とし、2014年9月現在で妥当な数値に一部置き換え、算出した。
https://tanaka.sakura.ad.jp/archives/001073.html

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